神鳥の卵

第 37 話


僕は目を疑った。
もともとの作戦では、敵に警備員に変装したゼロを誘拐させたあと敵を抑え込み、ジェレミアのサポートを得ながらカレンと咲世子でゼロを救出。その間に警察や黒の騎士団を呼び出して敵を捕縛させるという単純な内容だったはずだ。
だが、その策は失敗した。
ゼロは救出されること無く敵にさらわれ今ここにいる。
さすがに日本からはまだ出ていないが、敵国の大使館にいた。使われたKMFは偽装したトラックに詰め込まれ、全てここに運ばれている。もし、今黒の騎士団が動いていても、大使館内に入るには超合集国の承認が必要で、それにはまだ時間がかかる。問題は、もし黒の騎士団が突入したらゼロの正体と、彼の存在がバレてしまうことだ。
拘束されているスザクの前には、ソファーに横たわるルルーシュがいた。意識がないのか、目を閉じたまま微動だにせずそこにいた。共にいたはずのC.C.はどうしたのだろう。不用だから殺されたのかもしれない。彼女は不老不死だが、死んで動けない間にさらわれたと考えるべきだろう。
敵が完璧な策を行う最低条件。それは策の邪魔になる存在を押さえること。
当たり前のことだ。
だが、ルルーシュがその可能性を出さなかったことで、自分たちもその可能性を考えもしなかった。優秀すぎる軍師。あらゆるパターンを考え、全てに対処する人物だから、自分の身の安全は当然確保していると思いこんでいた。本当に問題ないのか確認もしなかった結果がこれなのだ。
盲目的に予知を信じ駒を進める敵に呆れていたはずなのに、自分たちも同じことをしていたのだ。なんて馬鹿なんだと過去の自分に怒りを抱いても意味はない。結果は出てしまった。考えるべきは、これから先のことだ。
幸い、敵はまだ彼がどういう存在か気づいてない。
幼い子供が指揮官だとは気づいているかもしれないが、それだけだ。
ルルーシュの関係者。ましてやルルーシュ本人だとは気づかれていない。

「それで?このときの姿勢制御は?プログラムじゃないよね?」

何度となく聞かれた質問。
ルルーシュの想定通り、敵は最強の騎士の力を欲していた。その戦闘能力を解析し、自分たちの戦力とする。だが、彼らにたずねられても、その方法を教えることは出来ない。そうなるように操縦している。自分が体を動かすのと同じように動作するよう意識している。その程度しか答えられないからだ。姿勢制御にしても同じ。バランスを崩さない方法など人体もKMFも変わらない。だから、重心の置き方を意識し、遠心力がどう働くかを想像し、このタイミングでこうすれば、という感覚的な話しかできない。空を飛んでいるときは更に直感的な操作が必要になる。要は慣れだ。自分の体と同じように動くよう操作に慣れる。それ以外言いようがない。

「答えない気?なら、この子がどうなってもいいのかな?」

わかりやすい人質がいるのだからと、王と呼ばれる少年はソファに近づいた。

「やめろ!」

何を話しても淡々と答えていたスザクが感情を顕にしたことで、王・シャリオはほくそ笑んだ。この幼子が弱点だと大声で言っているのも同じだから。

「なら答えてよ。枢木スザク。その強さの秘密を全部教えてくれれば危害は加えない」
「・・・僕の操縦に関しては、僕より君のほうがよほど詳しい」
「どういう意味だ?」
「操縦の癖や的による僅かな動作の変化、僕自身が気がついていない細かなことを君はよく知っている」

恐ろしいほどランスロットとスザクの動きを調べ尽くしている。数値化されたデータだけではない。スザク自身の情報もよく調べたなと思うほど知っていた。軍人時代だけではなく私生活に関しても。
記憶を改ざんしたルルーシュを監視していた頃を思い出す。あらゆる情報をあつめ、その行動を把握し記録していた。それと同じことをされた気分だ。
シャリオはよくスザクのことを調べたと言われ、満更でもない表情を無意識に浮かべていた。

「あの動きをするためにどんなシステムを使った」

おかしなことを聞く。
ランスロットの構造面を知りたいのであれば、操縦者のスザクに聞くのは間違えている。携帯電話を普段から使い、人よりも扱いが上手いからと言って、ではその携帯はどんなプログラムで動いている。どんな技術が使われているときかれても、使い手が答えられるわけではない。操作するためのボタンの位置を把握し、位置を確認したり考えたりしなくても指が勝手に動くぐらい使い慣れていると答えられても、ではそれに対応できるシステムはこれですと言えるものではない。
ランスロットでの戦闘は、ランスロットの構造とスザクの戦い方がたまたまうまく組み合わさったからできていることだし、最強を目指すなら自分にあった機体と戦い方を模索すべきなんじゃないだろうか。
どうしても構造が知りたいのであれば、誘拐すべきはロイドとセシルだ。

「内部構造は専門家ではないからわからない。でも、ランスロットにはオートバランサーや自動操縦はもともと備えられていないし、緊急脱出システムも邪魔だから取り払われている。もしかしたら他にもKMFには基本的に備わっている昨日であっても、ランスロットからは取り外しているものがあるのかもしれない」
「制御システムを使っていないだと?そんなことはありえない!空中で、この姿勢制御をなんの補助もなく手動で行ったというのか?」

嘘を付くならもっとまともな嘘をつけとシャリオは吐き捨てた。
さっき、この姿勢制御はプログラムではないよね?と自分で言っていたのにそれを肯定することを口にしたら否定されて、スザクはどうしたものかと肩をすくめた。
シャリオはかなり苛立っている。
これ以上の時間稼ぎは無理だろう。
ジルクスタンも超合集国に加盟している以上、ゼロ誘拐の疑いが向けられ、超合集国が必要だと命じれば黒の騎士団は大使館であろうと踏み込む権利を得る。それを知っているからこそ、幼い子供を盾にしているのだ。すでに海も空も封じられているから、彼らは日本を出ることは出来ない。無理に押し通せば敵とみなされるから。
彼らが正当性を示すには、スザクから強さの秘密を洗いざらい引き出し、黒の騎士団と超合集国には「悪逆皇帝の騎士枢木スザクを発見した」と報告し、正々堂々と勝負する機会を得ることだ。幼子は枢木スザクに誘拐されていたとでもなんとでも言える。この時、スザクがゼロだといえば、誘拐を含め全てが秘密裏に処理されてしまうかもしれないため、ジルクスタンはスザク=ゼロだとは言わない可能性が高い・・・らしい。ルルーシュは、万が一スザクが本当に誘拐されてしまった時、相手がどう出るのか、スザクがゼロだと公表するのか否かについても予想を立てていた。C.C.とカレン、ジェレミアとロイド、セシルもこれには同意を示していたから、ゼロの秘密は守られるだろう。
あとはルルーシュの安全さえ確保できれば、スザクとしては強さの秘密などいくらでも奪われてもいいし、生存がばれたらばれたでまた死を偽装すればいいと考えていた。問題は、ランスロットの強さの秘密を使える手段がないことと、口で行っても相手は理解できないということだ。ルルーシュにスザクの動きを説明しても「そんな説明でわかるか!!」と言われたことがある。おそらくルルーシュと同じタイプだから100%伝わらない。
自分に格闘技の経験もあるのが理由かもしれないが、足が不自由なシャリオにはそんなこと言えるはずもない。
困ったな。どうしたらいいんだろう。
打開策が思いつかないまま、時間だけが過ぎていった。

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